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文也は一歩も動かない。
視線を刃へ向けることさえもしない。
「……一体」
その代わりに、唇が動いた。
「何を勘違いされているのですか?」
場にそぐわないと、誰もが思うほどひどく冷めた声。
それが穏やかな口調のまま、言葉を乗せて辛辣に叩きつけられる。
「宿命? 馬鹿げていますよ。
そんなの逃げの言葉でしょう?」
文也は冷たく笑った。
「あなた達は小学生か何かですか?
自分達の発言にさえ責任を持てないなんて。
掃除人になる。
その選択をしたのはあなた自身でしょうに」
その言葉に、相対している掃除人達が怯んだ。
だがその空気はすぐに殺気で埋め尽くされる。
「問答をしている暇はない」
文也の鼻先に突き付けられた刃がゆらりと揺れる。
それを合図にしたかのように、文也を取り囲んだ掃除人達が一斉に刃を抜いた。
「死ね」
ヒュッと刃が空を裂く。
目を細めてその様を見た文也は逃げることもなく、両の腕を軽く振った。
文也が回避行動を取らないのを見た男達は、勝利を確信して口元に笑みを刻む。
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