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だがその笑みは一瞬で凍りついた。
「死ね?
随分とまあ、幼稚な言葉ですね」
刃は文也の眼前で止まっていた。
止まっているのは刃だけではない。
文也を取り囲んだ掃除人の全員が、不自然に動きを止めていた。
身じろぎ一つしない。
いや、実際はできないのだ。
「そもそも、たったこれだけの人数でかかってきて、私を害せるとでも思ったのですか?」
しんと静まる中を何事もなかったかのように歩いて抜けた文也は、自販機の前で立ち止まると、ズボンのポケットから数枚の硬化を取り出した。
チャリン、チャリン、と一枚ずつ、硬貨が自販機の中へ滑り込んでいく。
「甘いですよ」
ガコンッと滑り落ちてきたのは紅茶だった。
血のように紅い液体で満たされたペットボトルが、文也の手の中に納められる。
「私を殺したいのならば、少なくとも『紅』以上の名を持つ者を、両手の指の数以上揃えなくては」
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