Side : H

8/15
前へ
/74ページ
次へ
 だがその笑みは一瞬で凍りついた。 「死ね? 随分とまあ、幼稚な言葉ですね」  刃は文也の眼前で止まっていた。  止まっているのは刃だけではない。  文也を取り囲んだ掃除人の全員が、不自然に動きを止めていた。  身じろぎ一つしない。  いや、実際はできないのだ。 「そもそも、たったこれだけの人数でかかってきて、私を害せるとでも思ったのですか?」  しんと静まる中を何事もなかったかのように歩いて抜けた文也は、自販機の前で立ち止まると、ズボンのポケットから数枚の硬化を取り出した。  チャリン、チャリン、と一枚ずつ、硬貨が自販機の中へ滑り込んでいく。 「甘いですよ」  ガコンッと滑り落ちてきたのは紅茶だった。  血のように紅い液体で満たされたペットボトルが、文也の手の中に納められる。 「私を殺したいのならば、少なくとも『紅』以上の名を持つ者を、両手の指の数以上揃えなくては」
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加