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『敵に同情する余地はない。
遠宮龍樹。
お前は自分の仕事に徹しろ』
龍樹の皮肉をどう受け取ったのか、電話の向こう側の人間はそう冷たく切り捨てた。
龍樹の方も『同情』なんていう優しい感情は持ち合わせていないから、その言葉にあえて反論するようなことはしない。
『観察を怠るな。
いざという時、お前の本来の責務を忘れるな。
以上だ』
そして電話は一方的に切られた。
しばらく電話口で響く無機質な音を聞くともなく聞いていた龍樹は、不意に舌打ちをして電話を畳んだ。
「た~っちゃんっ!!」
それとほぼ同時に自分の足元で明るい声が響いた。
「やっぱりここにいたんだ。探したんだよ」
その声の主はすぐに龍樹の視界の中に姿を現す。
ピョコンと揺れる栗色のツインテール。
メイプルシロップ色の瞳は、感情を素直に映してコロコロと表情を変える。
今は龍樹を見つけた安堵が半分、放課後なんだから迎えに来てくれたっていいじゃんという批難が半分。
そんなところだろうか。
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