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美月さんの笑顔は全てをお見通しって感じがした。
なのに悪あがきもしてみてしまう。
「ち、違いますよ!!も、もう、25だし、料理くらい少しは出来ないとって、ちょっとした危機感ですよ!!」
「…そうなの。ふふ。」
美月さんは意味ありげに笑う。
そんな美月さんと一緒になって、ゆいが私に頷(ウナズ)きながら笑顔を向ける。
「うん。教えてあげる。成瀬さんのために頑張ろうね。」
「ひ、ぎゃあ!何!?それっ!?…何で、アイツの個人名が出てくんのよ!?だから!危機感が…。」
「はいはい。」
「はいはい。」
私は完全に二人にあしらわれていた。
「ねえ、美咲。料理ってね、気持ちを伝えられるんだよ。」
「…気持ちを?」
「うん。これは母の請売りだけど。私の父ね、今でこそ、孫の涼太にはデレデレしてるけど、結構私には厳しくって、家の中では口数もそんなに多い方じゃなかったの。もちろんすごく優しくはあったんだけど。
母は今までに愛してるなんて、一度も言われたことないってよくぼやいてた。
でもね、母が作った料理を食べる時だけは、すごく幸せそうに食べてて、美味しいって言って、食卓だけはいつも明るかった。
母は自分の料理を『美味しい』って言って食べてくれることが『愛してる』の代わりなんだって、言ってた。
料理を作る側からも、食べる側からも気持ちは伝わるんだって。」
「…ふーん。そっか…。」
半分わかって、半分わからないまま返事をした後、ゆいの言葉がゆっくりと心に染みてくる。
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