磁石

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「…もしもし?」 『あ、俺。お前、暇?』 いきなり突き付けられた単語に瞬時に言葉が浮かばない。 「はあ?」 『暇かって聞いてんだよ。てか、どうせ暇だろ?』 「はいー?私を暇人と決めつけないでくれる!?これでも私は結構…。」 『忙しいならいいよ。』 「ダ―――――!!」 …違う!!そうじゃない!! 『ダーー!?てかデカイ声出すなよ。何なんだよ!?忙しいのかよ、忙しくないのかよ!?』 「い、忙しくないわよ。別に。…少し暇かな。あ、いや、だいぶ暇かも。」 『結局…暇なんじゃねーか。じゃ、飯でも行かねー?前にお客さんと行ったウマイ焼肉屋あんだけど。お前、肉とかガツガツイケそうだし。』 「行く!!…あ、行ってもいいよ。」 『…なら、いつがいい?明日か明後日。』 「えと…、今実家に来てて…明後日でもいい?」 『ああ、了解。じゃ、また連絡するわ。ゆっくりして来いよ。』 「…うん。」 そう言った後、すぐに電話は切れなかった。 どちら側からも。 「…焼肉…楽しみにしてるから。」 『ん、じゃあな。』 電話を切った。 エアコンのきいたリビングから出た廊下は、真夏の蒸し暑さを閉じ込めたようにとても暑かった。 体中にじんわりと汗が滲んでいた。 けれど、一番汗が滲んでいたのは携帯を握りしめていた私の右手。 会社との関係をなくして、プライベートで成瀬さんから誘われたのは… 初めてだった。
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