磁石

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店に着いて、鉄板を挟んで向かい合って座る。 藤森はメニューを開いて一人大騒ぎ。 「タン!タン!タン!」 「はらみ~!」 「私、レバーも好きなんだよね。」 「やっぱカルビは外せないよねー!」 「てか、ビールだよね!?」 「…小学生かよ。」 そんな声も届いてないようだった。 メニューを見つめる藤森をテーブルに肘をついたまま見ていると、肩のラインに目がいってしまう。 今日はショートパンツじゃねーから足は見えてねーけど、Tシャツの襟が広く開いてて中のインナーが見えている。 白のTシャツに濃い目のピンクのインナー。 レース使いの肩ひもがなぁ…。 コイツって、鎖骨が結構深く見えんのな。 まあ、細いもんな…。 下向いてるとさ…睫毛(マツゲ)長いよな…。 「ねえ、頼んでもいい?」 ふいに上げられた顔に一瞬ビビってどもってしまう。 「あ、ああ。頼もうぜ。」 「カンパーイ!!」 藤森の声でグラスを合わせる。 「焼こ!焼こ!」 鉄板で肉の焼ける音を聞きながら、会話を始める。 「実家、ゆっくりできたか?そういや、お前ってキョウダイいんの?」 「いるよ。妹が一人。2つ下なの。でも、母には家には息子が二人いるって言われてたけど。あはは。」 「へえ、意外。お前、男兄弟がいそうだとは思ってたけど姉妹かよ。お袋さんの気持ちが何となくわかってしまうのは何でだろうか。」 「…どういう意味!?でも、今回は娘って、実感出来たみたいだよ。」 「何で?」 「…え。あ、うーんとね…。」 「何だよ?」 「…夕飯の準備とか…手伝ったし…。」 藤森の目が少し泳いだ後、そんな必要ねーのに肉を凝視する。 「…お前が料理か。」 「…あは。笑える?そんなイメージないもんね?あはは。笑って。笑って。…ただの危機感よ。危機感。25だしさ。」 言葉では笑ってんのに藤森の顔は笑ってない。 「別に、笑わねーけど?」 「え?」 「何で笑うわけ?すげーじゃん、ちったあやる気出たのかよ?」 「…うん、少しはね…。」 その間にも肉をひっくり返す。 藤森は肉を見つめていたけど、その顔は赤くて、それを鉄板の熱で誤魔化しているようにも見えた。
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