磁石

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成瀬さんは半分以上グラスに残ったビールをその目で確認しながらもこう言ってくれた。 「…俺、酔ってんのかな。」 それが成瀬さんの優しさだってことは私だってちゃんとわかるよ。 優しくされたら 私だって優しくなれる。 「…私も…今日は楽しく酔えそう。ね、もう食べれるよね?食べよ!」 「ああ、こっち焦げてきた。早く食べよーぜ。」 少し焦げたお肉は最高に美味しかった。 その後も私たちの話は尽きることなく、 たまにお肉を焦がしながら その責任をなすりつけ合いながら 楽しい時間を過ごした。 「…料理の最初はカレーだよな。カレー。まずはカレー作れるようになれよ。俺好きだし。」 「成瀬さんて辛いの大丈夫なの?」 「俺、辛いの好き。お前は?」 「私も辛いの好き!!じゃあ、辛口だね!…あ!!でもゆいは辛いのダメだった!」 「なんで室井が出てくんだよ?」 「なんか、カレーって大勢で食べるイメージじゃない?思いっきり4人で食べる設定だった。」 「はあ?お前は料理初心者で、部長は室井の料理を食べてるから舌が肥えてるし、…室井は辛いの苦手なんだろ?…まずは俺に作れよ。」 …え。 着ているTシャツが揺れるくらい、その中で私の心臓は激しく打っていた。 「…成瀬さん…味見してくれるの?」 「…バーカ。味見じゃねーよ。毒見だよ。毒見。」 「はあーー!?失礼ねー!!わかった。毒、入れるわ。即効性の毒をね!!あーー楽しみ!!成瀬さん、今の内に人生楽しんどいてよね!」 「こえーな。料理には愛情だろ?あ・い・じょ・う。これだから料理出来ねーやつは困るわ。」 「むっかつく!!最後のレバーもーらった!!」 私は箸で網に乗っていた最後のいい焼き加減のレバーを取った。 「おい!俺が丁寧に焼いてた最後の一つを!!吐き出せ!」 「バッカじゃないの?子供。」 「子供に子供って言われたかねーわ!」 「あはは。おもしろーい!」 「おもしろくねーよ!」 今日。 私の体温は お酒と鉄板の熱と お店の熱気。 そして、 成瀬さんへの想いで ずっと上がりっぱなしだった。
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