救世主

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『あの子は誰なの?』 『好きなのは私だけでしょ?』 その二つをゆいは部長に言えるだろうか。 ゆいは社内の噂にめっきり疎(ウト)い。 それは、たまたまゆいの耳に入らないことも多いのかもしれないけれど、それよりもゆい自身が噂というものから自分を遠ざけているようにも感じる。 人のプライバシーに踏み込まない。 それがゆいだった。 でもそれは、ゆいの長所でもあるけれど同時に短所でもあるんじゃないかって私は思う。 ゆいにとって部長はもう、赤の他人ではくくれない立場の人。 気になるなら聞けばいいのに。 問いただせばいいのに。 …私には、ゆいの気持ちが手に取るようにわかる。 "部長が言いたくないなら、聞かない方がいい。" "本当に必要なら私には言ってくれるはず。" そうやって、不安の波に溺れそうになりながら、部長が話してくれるのをずっと待ってる。 ずっと …耐えてる。 本当は もう 息も出来なくなりそうなのに。
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