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その日の午後。
社長のお客さんを見送りに来たゆい。
社用の高級で大振りの傘を開いて、お客さんを車まで送った後、経理室に戻ろうとするゆいを捕まえた。
「降ってきたね。」
「…うん。」
あれ?
「朝、天気予報じゃ言ってなかったのにね。今日傘持って来てないよ!」
「…私も。」
…何これ?
「帰りまでに止むことを祈るしかないよね。」
「…ホントに。」
…何なの?
「じゃ、またね。」
忙しいゆいが小走りで階上に戻るのはいつものこと。
いつも通りじゃなかったのはゆいの態度。
言葉。
表情。
無理に笑顔をつくろうとしてるのなんて、他の誰も気付かなくても私にはわかる。
朝は…あんなに明るかったのに。
午前中…お昼?…何かあったのかな。
嫌な予感が胸をかすめた。
ゆいのことが気になりつつも、仕事をいつも通りにこなした。
定時になり、帰る頃には雨は止んでいた。
帰りに残業するゆいに声を掛けてから帰ろうと思ったけれど、ちょうど席にいなくて顔を見られなかった。
私が家に着く頃には、またしとしとと雨が降り出し、私はゆいの帰りを心配していた。
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