5、中途半端なことほどたちが悪い

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「七尾、この人ユーゴくん。もう十年来の友達。ユーゴくん、この子は七尾。美大でグラフィックやってる」 「よろしく。僕はこの店のオーナーやってる西嶋雄吾。雄吾でいいよ。Jとは随分前に仕事でケンカして以来だ」 「どうも。ええと、柿塚七尾です。さっきJにケツ掘られたんで、名実ともにこの人のメスみたいなもんですね。こういうの初めてなんでどうふるまっていいかわからないんですけど」  淡々と言うと、一瞬空気が凍った。俺はスープを口に運んだ。雄吾さんは爆笑した。Jが頭を抱えて唸っている。 「いや、あははは、君、おもしろい! ぬけぬけとよく! はははっ、おい、J! お前よくこんなびっくりするような美形、モノにしたな! いやあ、めっちゃ気に入った。なあ、七尾くん、俺この店以外でバーやってるんだけど働く気ない? 給料はずむぜ。客筋もいい。君みたいに度胸があって頭のいい別嬪がカウンターに入ってくれたら、客、入れ食い」 「アホか! 七尾がお前に売るような時間があったら、俺が全部お買い上げじゃ! ユーゴくん、もうあっち行き。俺らの邪魔すんな。シッシッ」  Jが、犬にでもするような仕草で雄吾さんを追い払うと、雄吾さんはゲラゲラ笑いながら「J、お前にはもったいない」と言って、厨房に引っ込んだ。 「七尾、あのアホシェフのバーなんかで働くなよ。あそこは風紀が乱れとる」 「てことはお前、常連だろう」 「えっ、何で知っとる。あ……カマかけたな! ああー、もうなんや調子狂う。俺お前に骨抜きなんや。メロメロなんや。頼むからおっさんをからかうなよ。……ってか、ちゃんと食えよ。食わないと、後がもたんぞ。ゴム、グロスで用意したから部屋に戻ったら、リベンジや。……なーんやその顔。当然やろ。俺がお前くらいの年の頃なんか、ヤってヤってヤりまくって、相手が俺のザーメンで溺死寸前になるくらいヤってたぞ。……コラ、笑うな。ほんまやで!」
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