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「あの……その……」
ううう……言いづらい。
「ん? どうしたの?」
「えっと、あそこに、お写真があるよね」
私は、机の上を指差す。
「ああ、スイと一緒に撮ったやつだね」
スイちゃんって言うのか……。
「勝手に見ちゃってごめんね」
「いやいや、別に見るくらい、いくらでもいいよ」
涼君はそう言うと立ち上がって机まで歩いていき、写真を手に取る。
そして、「もっと近くで見てもいいよ」と言いながら、それを私のもとまで持ってきてくれた。
涼君、堂々としてる……。
これって全然、「元カノと一緒の写真」を持ってくる態度じゃないよ……。
完全にこれは、今も交際中なんじゃないかな……。
「さくらちゃんにも、早く会わせたいな。もうすぐ帰ってくるかもって言ってたから、きっと近いうちに会えると思うよ」
うぅ~。
心にズキーンと来る……。
涼君は私の気持ちを知らないから、仕方ないよね。
全く知らないんだし。
「この子が、えっと……スイさん?」
「うん。ああ、さくらちゃんより年下だし、『さん付け』しなくてもいいよ」
年下の彼女さんなんだ……。
私は半ば、放心状態になりつつあった。
恋が……終わっちゃった……。
「ね? 可愛いでしょ? でも兄妹なのに、俺とはあまり似てないってよく言われてるよ。さくらちゃんは、どう思う?」
ええええ!
妹さんだったのね!
彼女さんじゃなかった!
「涼君、妹さんがいたんだね!」
「あれ? 誰からも聞いてなかったっけ」
涼君は、きょとんとしている。
何だか、勝手に悩んで、涙まで流して……自分が恥ずかしい。
なんで思い込んじゃったんだろ……。
それと同時に、安心して涙が出そうになるのを、辛うじてこらえた。
「さくらちゃんの部屋の隣、あそこの部屋のドアに『翠』って書いてあるでしょ。あの部屋がスイの部屋だよ」
「ああ! スイちゃんって、あの字を書くんだ」
「ミドリだと思った?」
涼君は、面白そうに笑っている。
「まぁ、普通はそう読むよね。普通はね。でも、うちの母さん、普通じゃないでしょ。父さんいわく、母さんが名づけたそうだから」
「ぷっ」
美優さんには申し訳ないけど、私もふきだしてしまった。
「母さんには内緒だよ。しーっ」
「はぁい」
もっと早く聞けばよかった。
でも安心した………ほんと、よかったよ~。
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