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「おお、もう来てくれたのか!」
病室のおじいちゃんは、元の明るさを徐々に取り戻していたようで、ちょっと安心した。
「ただいま。はい、これ。この将棋盤と駒箱でしょ?」
「ああ、これだこれだ。助かったよ」
おじいちゃんは嬉しそうだ。
「でも、ここ個室なのに、誰と将棋を指すの?」
「お見舞いに来てくれた人とか、ここで出来る友人とかに決まってるじゃろ」
なるほど、おじいちゃんは誰とでもすぐに仲良くなれる人なので、話し相手や友達を作るのに困るタイプではないか。
「それで、これ。キーホルダーとポケットアルバムを持ってきたんだけど」
私はバッグから、それらを取り出した。
「それでね、聞こうと思ってたんだけど。おじいちゃんも押し花を作るんでしょ」
おじいちゃんは、一瞬きょとんとした様子をしたが、すぐに笑って言った。
「まぁそんなに上手ではないが、やらんこともないな」
「それじゃ、このキーホルダーに入ってる花びらなんだけど……。ここから、桜の木の種類とかって分かんないかな?」
私の言葉に、おじいちゃんは少し険しい表情になる。
「残念じゃが、わしにはさっぱりじゃ。そもそも、木の種類を特定したとしても、この京都市内だけでも数え切れないほどの木があるじゃないか。これがどの木のものかなんて、分かるとは思えないな」
たしかにおじいちゃんの言う通りだと思った。
ここを取っ掛かりにするのは無理かも……。
私は続いて、もう一つ気になっていたことを切り出した。
「このアルバムに書いてある『マツダイラ・カメラ店』……ここで写真が現像されたってことよね?」
「ああ、これはそういうことじゃろうな。ふむ、お前の実の両親は、この店の近所に住んでいる、もしくは過去に住んでいたのかもしれないな。普通、写真を現像するのに、そんなに遠出しないじゃろうから。この店は、個人店のようだし、ひょっとしたら両親はお得意様だった可能性もあるな」
私の考えていた通り、手がかりになりそうだったので、ちょっと嬉しかった。
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