第5章 大阪編

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「『に』が入りますよね。『ふられた今宵に、わななき夜桜』ですね」  涼君が言う。 「おう、モウリョウイン君は、よう知ってるやないか。さくらは俺の娘やねんし、もっと知っといてくれんと困るやん」 「は、はい、すみませんでした。でも、こちらの彼は、正しくは『清涼院君』です」  素直に謝っておこう……。 「魑魅魍魎(ちみもうりょう)みたく言わないでください」  涼君が笑いながら、名前のところに突っ込んだ。 「ぎゃはははは、すまんすまん。それは置いといて、俺を『わななき夜桜』だけの歌手やと思っとるんちゃうか? もっといっぱい歌ってるで。『夏の夢、チクワと鉄アレイ』とかな」  す、すごいセンスだ……。  これって全部、一髪屋さんの作詞なのかな。  どんな曲か聴いてみたくなってくるかも。  こんなへんてこな曲名だと。 「その顔は、さては知らんかったか。ほな、これからカラオケ行こか。生歌で聴いてみい! 二時間ぶっ通しで聴かせてやろうやないか!」 「いえ、ちょっとこのあと、別の用事がありますので……」  涼君が、すぐに断ってくれた。  もし私が一人で来てたなら、恐らく断ることができずに、カラオケに行ってたかも。  聴いてみたい気もするけど、二時間はきつすぎる。  涼君がいてくれてよかったよ……。
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