第5章 大阪編

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「えらいびっくりしたな。何でか気になるけど、まぁええわ。ふん、どうせ、あれやろ? その他の二人のヤツらも、胡桃っちが母親って言うたんやろしな。お? 図星やな!」  私たちの顔色を見てそう言うと、一髪屋さんは少し言葉を切った。  咳払いを一つして、そして話を続ける一髪屋さん。 「そいつらの話はともかくも……胡桃っちは、あんたを産んですぐ亡くなってしもてな。俺もショックで、歌手目指すん、やめたろかと思ったけども……俺のスター性がすばらしすぎて、事務所がそれを許さんかったんや。俺は成功を約束されてたんやけど……ぶっちゃけ、その時点ではまだ、あんたを養えるレベルの収入やなかった。ほんで、泣く泣くあんたと別れたんや。せやけど、何年かして、『わななき夜桜』でビッグになってやな。この曲は、あんたと胡桃っちのキーホルダーを見て、書いたんや。それが、俺のハイパーでスタイリッシュかつセンチメンタルな歌詞とあいまって、爆発的に売れたわけや。ほんで、あんたを養えるようになったと思った俺は、すぐあんたを迎えにいった。でも、もうその施設にはおらんって話やったわ。そら悲しかったけど、いつか会えるって確信はあったで。そういう運命やねんもん、俺らはな」  ところどころ自身の成功を鼻にかけたような調子があったものの、心なしか一髪屋さんの口調は、さっきまでと打って変わって、優しく真面目な調子になっているように感じた。 「そんでな、昨日たまたまブログ見つけてな。びっくりしてん。そら、そうなるやんな。ブログ主、完全にあんたやて分かったもん。一発でな。俺の名前が『一髪屋』だけにな! ぐ、ぐふふ、ぎゃはは」  前言撤回パート・ツー………ちっとも真面目じゃないし。 「まぁ、そんでやな。俺の今の状況を説明するとやな。そんなに前ほどぎょーさん曲は書いてへんねんけど、今までの名曲の数々をライブとかディナーショーで歌って、客を楽しませてる毎日や。今なら十分、あんたを養えるさかい、問題あらへんで。親子関係が証明された暁には、うちで暮らすとええわ」  一髪屋さんには失礼だけど、この人が父親だとちょっと困るかなぁ……。  気が、全く合わないっぽいし。  一髪屋さんの話は、一段落したようだ。 「貴重なお話、ありがとうございました」 「いや、ええんやで。親子水いらず、言うてるやん」
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