第5章 大阪編

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「行っちゃったね」  一髪屋さんの姿が見えなくなると、私はつぶやいた。 「何だか、不思議な人だったね~」  涼君が言う。  確かに不思議すぎ。  でも、それよりもむしろ……。 「私、あの人、苦手かも~。馬が合わないというか、気が合わないというか。正直、あの人が父親だったら、嫌だなぁ。一緒にいるだけで、疲れる感じだよ」  つい、本音が出てしまった。 「実は、俺も得意じゃないかな」  頭をかきながら涼君が言う。  なんだ、私だけじゃなかったんだ。  よかった。  何が「よかった」なのかは、自分でもよく分からないけど。 「まぁ、でも、DNA鑑定の費用を全額負担してくれるのは、すごくありがたいから、悪い人ではないんだと思うよ。ただ、ほんのちょっと、とっつきにくいというか、人を寄せ付けないオーラがあるというか、そういう人だったよね」  涼君の意見に、激しく同意だった。  その表現はかなり、オブラートに包まれている感はあるけど。  私はストレートに「馬が合わない、気が合わない」って言っちゃったな。 「たしかに、それはそうだね。悪い人ではないのかも、うん」  仮にも、父親である可能性が出てきた人なので、私はそう思いたかった。
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