episode1 御曹司と一庶民

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彼、三枝光成さんと初めて会ったのは桜並木が咲き誇る4月の始め頃。 私はまだ新人で、たまにドジしたりしてお客様に少なからず迷惑をかけていた時期の事。 午前中の忙しい時間を何とか乗り切り休憩がてらコンビニエンスストアに買い物をしに行くと、如何にも高級な外車らしき車が駐車場に入ってきた。 最初、怖い人達の車かと内心ドキドキしていたのだけれど、運転席から出てきたのはスーツに身を固め、携帯電話片手に何やら話をしている30代前後の男性。 私は関わらない様にそっと前を通過した筈だった。 「ねぇ、君?」 ところが、そんな私の思いとは裏腹に彼は私を呼び止め 「すまない…君は地元の娘?」 そう聞いてきた。 当然、私はこの町に長く住んでいた訳でも無いので、詳しい事はわからなかったけど 「いや、この辺りに雰囲気の良い喫茶店があると聞いてさ、一度いってみたかったんだけど…」 喫茶店? 彼の話ではこの辺りにある…それって確かうちの店だけじゃ… 確認の為に 「店の名前って聞いてます?」 そう聞くと、彼はうちポッケから一冊の手帳を取り出し、真ん中辺りを開いて一枚の紙切れを取り出しその紙に書いてある字を読み上げた。 「んー。喫茶店・(なぎ)と書いてあるけど、君知らない?」 「ああ、それなら…私の勤める喫茶店の名前ですよ」 幾ら何でも自分の勤める店の名前言われたら、答えざるを得ないじゃない…
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