Plain Song

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  どうやら、またやったらしい。 いい加減やめればいいものを、大事な顔にまで傷を付けてこいつは何やってんだか。 「そんな顔するくらい嫌なら手当なんかしなきゃいいだろ」 「手当が嫌でこの顔なんじゃありません」 植松さくら、今年ハタチ。 華の女子大生。 看護師を目指して、日夜勉強中。 そして、目の前の怪我人は… 「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」 幼なじみの中井累。 「あなたの職業を考えてみなさい」 「……歌手」 そう。 彼は今人気のロックバンドでボーカルをしている、いわゆる芸能人ってやつだ。 「芸能人は顔が命でしょう」 「俺は芸能人じゃない」 「そう思ってるのは本人だけよ、  あ、そうだ。オリコン1位おめでと」 「…ついでみたいに言うなよ」 累は小さいときから歌がうまかった。 いつも私に歌ってくれて、将来は歌手になるとずっとずっと前から言っていた。 その言葉通り。 中学の時バンドを組んで、メンバーを入れ替えながら早8年。 高校3年の時に累の曲がCMのタイアップ曲に選ばれ、そこから事務所と契約して一気に人気バンドに上り詰めた。 ギターボーカルの透き通った声が耳に心地いい、等身大な歌詞が売りのロックバンド。 「またアルバム出すって聞いたよ、  すごいね~作曲追いついてる?」 「追いついてないからイラついてんだよ」 「だよね」 わかってて聞くなよ。 消毒のために当てていたガーゼを外せば、累はふてくされたようにどかっとソファーにもたれてため息をついた。  
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