5人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら、またやったらしい。
いい加減やめればいいものを、大事な顔にまで傷を付けてこいつは何やってんだか。
「そんな顔するくらい嫌なら手当なんかしなきゃいいだろ」
「手当が嫌でこの顔なんじゃありません」
植松さくら、今年ハタチ。
華の女子大生。
看護師を目指して、日夜勉強中。
そして、目の前の怪我人は…
「じゃあ、なんでそんな顔してんだよ」
幼なじみの中井累。
「あなたの職業を考えてみなさい」
「……歌手」
そう。
彼は今人気のロックバンドでボーカルをしている、いわゆる芸能人ってやつだ。
「芸能人は顔が命でしょう」
「俺は芸能人じゃない」
「そう思ってるのは本人だけよ、
あ、そうだ。オリコン1位おめでと」
「…ついでみたいに言うなよ」
累は小さいときから歌がうまかった。
いつも私に歌ってくれて、将来は歌手になるとずっとずっと前から言っていた。
その言葉通り。
中学の時バンドを組んで、メンバーを入れ替えながら早8年。
高校3年の時に累の曲がCMのタイアップ曲に選ばれ、そこから事務所と契約して一気に人気バンドに上り詰めた。
ギターボーカルの透き通った声が耳に心地いい、等身大な歌詞が売りのロックバンド。
「またアルバム出すって聞いたよ、
すごいね~作曲追いついてる?」
「追いついてないからイラついてんだよ」
「だよね」
わかってて聞くなよ。
消毒のために当てていたガーゼを外せば、累はふてくされたようにどかっとソファーにもたれてため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!