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かつて地球に存在していた君主政体の国の大統領、ルイ・ナポレオンの寵愛品であったという。
18世紀に造られた遺産である椅子には、布地に、金糸で細かな刺繍が施されている。
椅子の周囲を縁取った檀木にも、豊作を象徴する麦と天使の彫細工が贅沢に描かれていた。
このコロニーの中にあるものすべてに、無駄なものは一切存在しない。
無駄なものの寄せ集めとしか思えない椅子の周りを、長官は愛でるように一周し
た。
それから暫く部屋の中を確認するように眺めた後、ようやく腰かけると満足そうな溜息を洩らした。
とはいっても、
実際にそこにいるのは実態ではなく、電子に分解され運ばれた映像でしかない。
しかし、コロニーの天井から振る粒子で映像化された男は、皺の一本一本までもが、
精密に映し出されているため、そこに肉体が存在するかのような、錯覚を覚えた。
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