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クロウの身体からはあまり獣の匂いはしない。
むしろ焚き染めた香の甘い香りがして、めいっぱい嗅ぎたくなる。
雪菜は首筋に顔を埋めてクンクンし始めた。
「雪菜……やめろ、むず痒い」
ぶるりと身体を震わせて、クロウが抗議した。
人間の言葉__というか日本語で。
が、雪菜も、その内にいる祐希も気にしない。
クロウは犬ではなく、妖だと知っているからだ。
普段は犬のフリをしているが、クロウの正体は人狼__それも本来は銀色の毛を持ち、他の人狼よりもはるかに強い力を持つ__で、人の姿にもなれる。
妖にしてはまだ若いがそれでも優に100年以上生きていて、知能も高い。
おそらく雪菜や祐希よりも知能指数はずっと高そうだと思われる。
雪菜は名残惜しそうにしながらもゆっくり顔を離した。
「傷の具合はどう?」
そっと首筋を撫でながら尋ねるとクロウはフン、と鼻を鳴らして「こんなものなんでもない」と、包帯の巻かれた右前足を持ち上げてみせた。
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