1

7/13

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 だがそれでも被害は決して小さくはない。 「今ここで、あなたがたと不必要な争いをするだけの余裕は正直ありません。それはあなた方も同じではありませんか?」  それに、と使者は続ける。 「もともと我々としてはあえてあなた方と争うつもりはない。あなた方は数も多いし、機械も持っている。知恵もある」  だが今現在確かに人を襲っているものはいる。 「われわれはそのことでこそ、あなた方と協力したいのです」  いま人を襲っているのはいわゆる犯罪者だというのだ。  「闇皇の統治に反抗するもの、あるいは己の欲望に負けてしまったものたちです。我々にとって人間の血肉というのは甘美なるごちそうであり麻薬のようなものであり、猛毒でもあります」  肉体と、なにより精神が侵されていく。   「人間の血肉を口にした者は例外なくまず精神を病みます。自身では気付かない内に凶暴性が増し、利己的になり、欲を抑えることができなくなる。肉体的には非常に力が強くなります。妖力__種族によっては魔力と言っていますが__も強くなります。ただし、本来自身が持つべき力の限界を超えてしまうことになる事が多く、食べ続けるとそのうち肉体が負荷に耐えられなくなり崩れていきます。巨大化し、膨れ上がって破裂したという例もあるようですが、とにかくいずれにしても最後は身の破滅だということです」  それでも人間を襲う者がいるのは、危険とわかっていても力を欲する者や、もともと低い知能しか持っておらず、ただ食欲のままに貪る者がいるからだと言う。しかも一度でも口にすれば必ずまた欲するようになる。   「闇皇はそういった者が増えることを望んでおりません。ですがあのような穴が開いてしまった以上、我々だけではどうにも抑えるのは難しい。あなた方の協力が必要なのです。__ここはひとつ、お互いに歩み寄りませんか?」    闇皇の使者が訪れてからわずかに半年後。      妖と、人間と、奇妙な協力体制は試験的に実行に移される。        
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加