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「とにかくもう決まったことだから、の一辺倒よ!まったく冗談じゃないっつーの!」  ぐびっと、缶ビールを飲み干して悪態をつく祐希に「はいはい」と明らかに適当な相槌を打つのは、ルームメイトで同じく<砂漠のラクダ亭>の研修生である神谷真紀。柔らかく肩にかかる茶髪を器用に頭のてっぺんでくるくるとねじってバレッタで止め、鏡に向き直るとコットンで丁寧に化粧水を顔に叩き込んでいる。日に焼けていない素肌はすべらかで、化粧なんて必要ないんじゃないかと思うが、ルームメイトになってひと月、毎朝しっかり30分ほどかけて化粧している。  適当メイクで5分ほどで終わってしまう祐希としては、関心してしまうが、マネできないなとも思うところだ。 「ってか、あんた全然聞いてないでしょ」 「んー、聞いてるよ」  ぱたぱた。  コットンの動きが止まったかと思えば、今度は白くて目、鼻、口に穴の開いたフェイスシートを顔にペタリ。  そのままの状態で手を伸ばし、テーブルから自分の分のチューハイの缶を取ると、一口ごくり。 「まったく、聞いてるようには見えませんけど」  祐希は、ため息をついてテーブルに突っ伏した。 「聞いてるって、妖管理局前の喫茶勤務になったんでしょ。つーか、あんた飲みすぎよ。明日からさっそく勤務なんじゃないの?」 「これが飲まずにいられるかってーの!」   「どこのおっさんよ、あんたは」  突っ伏したまま声を上げる祐希に、呆れ顔で真紀は笑う。   「いいじゃないの、喫茶勤務。楽そうだし、何より__安全よ」 「楽とか、安全とかいらない」 「またあんたは……」  真紀は肩を竦めながら立ち上がると、キャビネットの引出しから白い一枚の札と筆ペンを取り出した。  さらさらと何やら梵字にような文字を札に書いていく。  書いた文字をなぞるように手で触れると、触れた部分がぼんやりと白く光って瞬いた。   「もう今日はとりあえず寝なさい」  テーブルに肘を乗せたまま恨みがましい目で顔を上げた祐希の額に白札をペタリとつける。  白札は吸い付くように祐希の額に引っ付いて剥がれ落ちない。  すぐに、祐希の瞼がトロンと眠そうに落ちた。  何度か瞬きをして、祐希は諦めて立ち上がると、もそもそと寝間着に着替え萩める。__眠い。  
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