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《1》
その光景を喩えるなら、灯篭流し。光の粒が途切れることなく流れていく。
田舎の鈍行各駅停車。しかも時間は夜。彼らはそんな事は知らないのだろうが、ローカル線のダイヤでは次にあるのは回送電車のみ。つまりこれが終電。
ちなみに『彼ら』とは、このローカル線の終電に乗り合わせた、二人の子供。乗客は彼らしかいない。別に彼らは知り合いというわけではない。偶然乗り合わせたにすぎない関係だ。
その彼らは、車窓の外に流れる光の粒を、各々圧倒されるように眺めていた。その正体は蛍。昼間であれば、そこに広がるのは一面の水田風景であっただろう。自然が作り出した、現在では希少で美しい風景なのだが、彼らがそれをどこまで理解しているかは分からない。
彼らの片方――どこかぶっきらぼうに見える少年は、じっと窓の外だけを眺めていた。この電車に乗ってかれこれ二時間。確かに車窓の風景は少年の心に非常に印象深い何かを残してはいたのだが、何かの石像のように少年が視線を動かさない元々の理由は別にあった。
それ即ち、他人と目を合わせないこと。特に大人。もっと言えば車掌とか。
別に無銭乗車ではない。切符は買ってある。法律的なことを言えば後ろ暗い部分は無い。実を言えば目的地は適当に選んでいて、今はちょうど舌打ちしていたところだった。
遠くへ来すぎた、と。距離が問題なのではなくて、掛かった時間が問題なのだ。辺りは既に真っ暗。元々この電車に乗った時間も遅めだったのだが、できれば早急に、元いた土地から少しでも離れておきたいと思ったのだ。
少年の足元には、大きな肩掛けのスポーツバック。こんな時間に一人で電車に乗る子供。まあ、大方の人間なら察しがつくだろう。そしてそれは正解である。
少年は、家出中であった。
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