星色ストレンジ

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 もう片方――どこかムスッとした表情の少女は、外の景色を見ていた視線を、今は車内の至る場所へと落ち着き無く巡らしている。  さっきまで蛍の灯篭流しに素直に感動していた少女は極めて遺憾な問題によって、思考を現実に引き戻される事を余儀なくされた。  何が起きたかと言えば、金が無い。差しあたっては電車賃が。  決して無銭乗車をしてやろうとか、悪意があって持ち合わせていないのではない。簡単に言えば財布を自宅に忘れてきたのだ。そして、今気付いたのだ。もっと言えば少女は札を入れる財布と小銭を入れる財布とを分けていた。だから気付くのに遅れたのだが。  少女は少年よりも少し以前からこの電車に乗っていた。彼女の乗った駅からの電車賃が電光掲示板に表示されている。足りない。少々ではあるが、どうしても足りない。  しかしこの苦境、どうしたものか――少女は必死に考えているのだ。本人とすれば怪しまれないように。はたから見れば挙動が完全に不審人物のそれだが。  事情を説明して親に迎えに来てもらえばいい。常識的にはそれしかない。それだって少女はもちろん考えた。考えたが、それはできないのだ。  少女が抱えるバックは、旅行用にも使えそうな大きめのバック。そして、こんな時間の電車に一人で乗る少女。まあ、言うまでもなかろう。そしてそれは、やはり正解である。  少女は家出中であった。
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