星色ストレンジ

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     《2》  少年の足元に携帯電話が転がってきた。一瞬だけ、その携帯電話に視線を落とす。誰のものだろうかと考えて――考えるまでもない事に気付いて思わず視線を逸らした。  正直に言えば、少年はその存在に気付いていた。自分の席から背後に少し離れた席に座る少女の存在を。しかし、だからといって別に変な意味じゃないぞ、と少年は自分に言い訳をする。  実はその通りで、窓の外ばかり見ていた少年は、その窓に度々反射して映りこむ少女の姿を無意識に見ていただけなのだが。  ともあれ、少年はその少女の存在に関しては見なかった事にしたかったのだ。  自分の事は気付けなくても、他人の事であれば気付いてしまうもの。つまりどういう話かと言えば、少女に対して自分と同じ匂いを感じてしまっていた。もっと有り体に言えば、明らかに彼女は家出娘にしか見えなかった。  家出中の自分が、家出中の他人と関わる? 旅は道づれとか言うのか? おいおいおいおい…冗談だろ。勘弁してくれよ――それが少年の心境。  例えばこれが自身の読む漫画の世界で、自分の立場が主人公なら、きっと少年は『なんでここで、こんな可愛い子に声掛けねぇんだよ、バカじゃねえの』とか思っていただろう。  しかしここは極道よりも、親しらずを抜く歯医者よりも容赦の無い現実の世界。ただでさえ見つからないように細心の注意を払っているというのに、こんな事に関わるのは少年にとって耐え難いのである。それはもう胃が軋むほどに。  一人なら怪しくても二人なら大丈夫――という理論もあり、時によっては正解でもあるのだが、少年の理屈ではこうだ――怪しい奴が二人になれば、怪しさも単純に二倍。 「あの…すみません、取ってくれませんか…?」  そう言って背後から声を掛けてくる少女の、いかにも可愛らしく小首を傾げる仕草も、いかにも歳不相応な男殺しの微笑みも、遠慮がちな可愛い声色も、余裕があればこその鑑賞物。  多少…いや、多めの罪悪感を感じつつ―― 「…………」  少年の取った行動は、キック。視線は窓の外のまま、足元に落ちた携帯を、すり足で少女に向けて、軽く蹴り出した。
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