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「くくくっ。私たちがここまでやられるとは思わなかったよ。流石は王族種と言ったところか……」
若い男は残った力で立ち上がり、深い闇色の瞳を大きく見開き、赤い瞳の男を指差す。
「――だが、ヘルファリテっ! お前はいずれ、今日という日を後悔するだろう。私を殺さなかったこと――」
黒髪の若い男の全身を覆っていた銀の光が眩しいほどの輝きを放った瞬間、男は糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
呼吸もなく、あれほど憎しみに満ちていた闇色の瞳からも、すっかり光が消えていた。
赤い瞳の男ヘルファリテは動きを止めた若い男に視線をやり、憐れみの表情のまま小さく息を吐いた。
そして、一度目を閉じると、今度は冷たく感情を失ったような瞳で、フードの男に殺意に近い視線をやった。
「まだ、我らに抗うか?」
冷たく言い放ち、剣を構える。
なんの変哲もない細みの剣だったが、ヘルファリテの両手から黒い揺めきが現れると、その揺めきに飲まれ、しだいに禍々しい姿へと変貌していく。
「……いや、止めておこう。消滅だけは避けたいからね」
仲間の危機を、ただ静観していたフードの男。彼は軽い口ぶりで言うと、懐から小さなガラス玉を取り出し、それを勢いよく踏み潰した。
硝子の割れる小さな音と共に眩い光が放たれ、フードの男はその光に飲み込まれていく。
空間全体に満ちる眩い光に、上手の二人の視界は白く染まり、見える世界が奪われてしまう。
しばらくして辺りから光が消え視界が戻るが、フードの男の姿は最初からいなかったかのように、その場から消え失せていた。
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