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「転送魔法か?」
老人の問いに、ヘルファリテはフードの男が居た場所へ向かう。
そこには先程まではなかった魔法陣がうっすらと残っていた。そして、周囲には薄いガラス片がいくつか散らばっていた。
ヘルファリテは、そのガラス片を感情なく踏み潰す。
「おそらく、魔玉(まぎょく)でしょう」
「そうか。向こうには予想以上に多くの者が流れているようじゃな……」
「また、こちらに攻めて来るでしょうか?」
「さあな。……ただ、今回は奴らの総意ではなく、個の私怨だけで動いておったようじゃがな」
「私怨……ですか」
ヘルファリテは惨憺たる広間を一度見渡すと、続いて動くことのない黒髪の若い男を見下ろした。向けられる視線からは憐れみが薄らぎ、後悔の色が出ていた。
「……後悔……か」
ポツリと呟いたヘルファリテは納めていた剣を再び手に取り、横たわる若い男にかざした。
ヘルファリテの手から黒い揺めきが現れ、流れるように蠢き、剣を覆うように絡み付く。
静かに男の首筋に剣を近づける。
黒く揺めく切っ先が若い男の髪に触れると、その部分は音や匂いなどを発することなく溶け、蒸発するように跡形もなく消えてく。
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