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「グランリーオ様……」
殺す力はあっても、殺すことはできなかった――
それは深い感情による抑制で、ヘルファリテも同様なのだろう。男に向ける視線が全てを物語っている。
「しかし、幸か不幸かシルエルド族は、わし一人になった。同族が居ない今、この者に施した封は、わし以上の魔力を持つ者でも現れない限り、解かれることはないだろう」
グランリーオは強い断言で言うが、その口調には寂しさが滲んでいた。
「……ヘルファリテよ。これからは、お主が王として民を支えてくれ」
「どういうことですか、グランリーオ様!」
「わしが逃げていると、思うかもしれん。だが、わしはこの戦いで自分の老いを痛感した。わしの力が及ばないばかりに、多くの民の命を失ってしまった……。これから先、何がおこるか分からない。そうなった時に、民を守ることができるか不安になったのじゃ。だから、これからは若いお主が民を先導し守っていってくれ」
グランリーオの意志は固いようだ。
ヘルファリテを見据える真っ直ぐな金色の瞳は、弱さや老いなど微塵も感じることはできなかった。
ヘルファリテは老いた王の意思を尊重し、片膝をつき深く頭を垂れた。
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