白い竜

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ルインの丁寧な説明を受けるが、リトスの表情からは疑問と不服の色が消えない。どんなに聞いても、その答えがコチョウを殺す理由にどう繋がるのか理解できていないようだ。ゆえに、納得もできないのだ。そんな様子を見つめ、ルインは小さくため息をつき、少し強めの口調で言った。 「いいこと、リトス。不和が作り上げるのは、いつ暴走して壊れるか分からない欠陥だらけの生物なのよ。そんな危険を孕んだものは、この世に残していてはいけないの」 「だっ、だから封印しようってことなんだよっ!」 強い口調に対し、リトスも感情的に訴え返す。が、その訴えに、ルインは悲しそうに首を横に振った。 「リトス。私の言う暴走は、行動的な話じゃないの。爆発的な力を発生させる魔力の暴走の話よ。爆発的に発生した魔力は、おそらく完全な封印であっても破られる可能性があるわ。そして、地上に甦ったら魔力は再び暴走し、また今回のような惨劇を繰り返す。今回はどうにかなったけど、次も上手くいくとは限らない。より強力な力を放ち、私たちの手では太刀打ちできない存在になってしまうかもしれない」 「…………そ、そんな」 突きつけられた現実に、リトスが失意の表情を浮かべ、がっくりと項垂れた。 声なく嘆くリトスの傍らで、シエラもまた茫然と佇んでいた。ただ、シエラの悲観はリトスのように大切な人を救えない絶望ではなく、己の決断が無意味になってしまったことによるものだった。 クラージュ封印のために、シエラたちは古代精霊の大きな魔力を受け入れた。悩み苦しんだ末に、どんな結末も受け入れる覚悟で辿り着いた決断だった。そして、この決断が報われると思った矢先に聞かされたルインの発言に、シエラは自身の決断全てを否定されたように感じてしまった。
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