白い竜

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「…………わたしたちの決断は無意味だったの……?」 「そんな事はないわ。貴女たちの力がなければ、もっと悲惨な結果になっていたと思う。リトスと繋がりがあったとはいえ、ここは貴女にとって縁もゆかりもない地。それなのに、こんなにも必死に助けてくれたんだもの、私たちは貴女たちに心から感謝をするわ。本当にありがとう」 「…………」 口を衝いて出てしまった感情に、ルインが否定と共に感謝を返す。普段ならば謝辞に対しては丁寧な礼を返すのだが、今のシエラにはそれができないでいた。シエラは自分が発した言葉にも酷く衝撃を受けていた。向けられた感謝が心からのものだと理解しながらも、その感謝を素直に受け入れられないほどに。 「…………」 現実を悲観する嘆きの声と、現実に苦しむ沈黙。質感の異なった空気が混じり合い、質量を増して広がっていく。 「……――リトスッ、何をしている」 不穏に飲み込まれ、さらに深い場所に沈みそうになっていくシエラの耳に鋭い金属音が届く。そして、重なるように聞こえてきたサーフィスの声。意思を引き戻され、促されるように視線を動かすと、視界の端にキラリと光る物が映った。銀色に光るそれが何か気づくなり、シエラは咄嗟に手を伸ばした。 「リトス、どうしたのっ? どうして、剣を抜いてるの」 リトスは腰に携えた剣を抜こうとしていた。彼女の視線は、変わらず地に横たわる瀕死の女性に向けられたままだ。 抜かれた刃の行き先は、一ヶ所しかない。シエラは剣を納めるよう宥めると、剣を握るリトスの手に添えていた手に力を込めた。しかし、ぐっと押さえこんでも、剣が鞘に戻っていかない。
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