第一章

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怠惰な自分に憤りを感じつつ「後悔先に立たず」という開き直りワードを歌うように呟き、自分を励ますと、ウチはクローゼットから入学式の為に買ってもらった正装を取り出し、着替えはじめる。 ウチは姿見の前で春物のコートを羽織ると、軽く服装を整え、その場でくるっと回り、モデルさんの様に軽くポーズを決めた。 馬子にも衣装というべきか、全く色気の無いウチでもそれなりの値段の物を身に纏えばソコソコにはなるものだ。 ウチもまだまだ捨てたものじゃない。 自画自賛し、自惚れた自分を戒める為、両手で頬を軽く叩くと、小学校の入学時に買ってもらった学習机の上に出しっぱなしになっている今日の朝五時までやっていた課題と机の横に置いてあったビニール袋に詰められた真新しい上靴を鞄に詰め込む。 大量の課題と上靴でパンパンに膨れ上がった鞄を肩に担ぐと、体が後ろへと引っ張られ、背中を冷たい汗が流れる。 中学の部活を引退してから全く運動しなくなり、確実に体力が衰えている事を実感する。 昔はこんなに軟ではなかったのに。 机の上の腕時計を引っ掴み、腕に巻き付けると、ケータイをポケットに押し込み、部屋を出る。 ドタドタと玄関へ続く階段を下りながら寝起きでボサボサの髪を手櫛で後ろに一本に纏めると、ピンク色のシュシュで結い、玄関の隅に揃えておかれている真新しいブーツに足を強引に押し込む。 そしてウチは勢い良く玄関のドアを開けた。 ドアが開かれたのと同時に、春の冷たい空気がウチの眠気を吹き飛ばしてくれる。
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