第一章

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ウチは列の最後尾に並び、軽く呼吸を調えながら電車に乗り込む。 中学の時は、これくらいのダッシュで息切れなんてしなかったのに。 時間は残酷にもウチから体力を奪っていく。 寝坊して通勤ラッシュのピークは過ぎている時間帯だと思っていたけれど、まだまだラッシュの真っ直中なようで、車内は人の熱気でムンムンとしていた。 久々に全力疾走したせいで膝が笑っている。 呼吸を調えるためにも座りたかったけれど、車内を見渡しても座れそうな場所は見つからない。 仕方なく吊革に掴まり、ケータイを取り出した。 前日にメグからメールで、一緒に学校に行こうと誘われていたけれど、ギリギリまで寝たいからと断って正解だった。 もし、一緒に行ってメグまで遅刻させる羽目になっていたかと思うとゾッとする。 ウチは、自分がケータイ使用可能エリア内にいる事を確かめ、ポケットに入れていたケータイを取り出した。 数件のメールが入っていた。 メールは、メグや旅行先から真っ直ぐに入学式に向かうと言っていた両親からだった。 全てのメールが、なかなか入学式に姿を現さないウチを心配する内容だった。 地下鉄といってもウチの家の最寄り駅から乗るとしばらく電車は地上を走るため、ケータイの電波は綺麗に四本立っている。
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