序章

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微かに春の匂いを含んだ冷たい風が、夢と現実の狭間を漂っていたウチの頬を、鋭く引っ叩き、乱暴に現実世界へと引き戻す。 「何時まで寝るおつもりなのですか?」 本当に人が他者に腹を立てたり呆れたりする時に敬語になるアレを寝起き早々にお見舞いされる。 寝起きのぼんやりとした視界の中で、大きく開け放たれた窓をバックに、叔母さんが大きな溜息をつく。 逆光だったからシルエットしか分からないけど、ため息の感じから推測して、相当呆れられている事は間違いない。 室内にいるはずなのに異様に寒い。 その原因は仁王立ちする叔母さんの後ろにありそうだ。 ウチはまだぼんやりとしている両目を擦り、仁王立ちする叔母さんの背後を確認する。 北海道特有の二重窓が全開に開けられていた。 これでは頑張ってウチの部屋を暖めてくれているハロゲンヒーターもお手上げだ。 頭の中で、ベッドから這い出て窓を閉めるかどうかを逡巡した後、この寒さなら羽毛布団を体に巻き付ければ、どうにか大丈夫だという結論に辿り着く。 ウチは掛布団をミノムシの様に体に巻き付け、ベッドの上で体を反転させると叔母さんに背を向けた。 「あと一時間」 「そこは後五分でしょ?図々しいにも程があるわよ。入学式までにやらなきゃいけない課題は大丈夫なんですか?」
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