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吊革に掴まり男性に説教しているおじいちゃんの目の前に座っていた高校生らしき男の子が、パタリと読んでいた文庫本を閉じ、おじいちゃんを見上げた。
男の子は、色白で睫が羨ましいくらい長かった。
「何だ、お前。それが目上の人に対してとる態度か?」
長身のおじいちゃんは吊革に掴まったまま男の子を見下ろし睨み付ける。
「じいさん、あんたさ、矛盾した事言ってんじゃねーよ。老いぼれ扱いして欲しくねーって言ってたからタメ口使ったのに、今度は、目上の人がどったらこったらって。あんた面倒くせーな」
男の子は形の綺麗な唇から毒をまき散らす。
真っ赤な唇と真っ白な肌がバンパイアを連想させる。
男の子の話を聞いていた周りの人達はクスクスと笑っている。
おじいちゃんは、言い返す言葉が見つからないらしく顔を真っ赤にして「う、うるさい!」と男の子を一喝した。
「うるせーのは、アンタだよ。ラッシュアワーで混雑した車内で、あんな大声出して。移動中寝たい人もいるだろうし、勉強したい学生だっている。それに本を読みたいやつだっている」
男の子は自分の膝の上に置いていた文庫本をポンポンと叩き言葉を続ける。
「そんなやつらの大切な時間をアンタは、いい年こいて邪魔したんだよ。アンタ、この空間にいる人、一人一人に謝罪して来いよ」
怒りで震えるおじいちゃんに追い打ちをかけるように男の子は、欠伸を噛み殺すと更に毒を撒き散らす。
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