第1章

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 子供の頃、ゲームが大好きだった大学生の息子は、先日、私が物置から出してきたスーパーファミコンを見て「あー、これまだ動く!なつい(なつかしい)」といいながら、「ボンバーマン」や「ドンキーコング」などのソフトを次々にやりだし、「ドラゴンクエスト」を手にした時に「これこれ。オレが苦労してようやく制覇してエンドロールをゆっくり見ようとしたら、オカアにブチっと切られたんだよねー」といいだした。  そういえばそんなことあったような。息子が小学生の頃は世の中テレビゲームばやりで、毎日長い時間やっていることに業を煮やした私は、わざとテレビの前をチョロチョロしたり、掃除機をかけてうるさくして邪魔をした。それでもやめないので、コンセントを抜いてやったのだ。息子は一瞬「あ」といって凍りつき、うなだれたが、そそくさとボール蹴りに出て行った。私は「どうだ!いつまでもゲームをやめないからだぞ!」と腰に手を当て勝利宣言をして高笑いしたが、あの時、息子はドラクエのゴールにたどりつき、エンドロールが流れるのを見ながら、幼いながらも余韻に浸ろうと思っていたらしい。その感動の画面が悪魔のような母の手で真っ暗な画面に変わったのだから、ショックだったろう。  忘れかけていた積年の恨みが、突然物置から出てきた。さんざん「あの時なあ」と、恨みがましい表情で私を見ながらー。小さかった子供も、20歳の男になっていた。大きくなったもんだ。なつかしいゲームと、恨み節と、短気な母親がそこにいた。  十数年ぶりに戻ったほんの少しの時間は、再び物置に戻した。果たして次に出てくることはあるのだろうか。
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