第1章

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「しゃーないなぁ」 「んっ…あぁっ…イイっ」 「コレで…ええの?」 耳元で矢代がクスリと笑う気配がした。 「ちゃんと、来週の分まで…しといたる…から…」 「あんっ…あっ…ぁ…」 さっきまで他の誰かを探せと言ってたくせに…。来週の分までしておくからと言われては、もう、他の誰かなんて探せやしない。 「アキ…?」 「んっ…んんっ」 「返事は?」 「ん…んっ…うんっ…まっ…てる……からっ…あぁっ」 こうやっていつもこの男に落とされて、中途半端に甘やかされて。 また、突き放されると…わかっているのに。 「可愛いな…アキ」 「あっ…あっ…イイっ…ふぅんっ…んっ」 矢代は絶対に 「好き」 と言わない。 例えどんなに激しく睦みあっている最中でも。 そのかわり、賛辞の言葉ならいくらでも。それが、彼なりのベッドマナーなのだろう。 そうわかっているのに、やはり彼に言われると嬉しい。その優しい微笑で、情熱的な所作で。言葉に深い意味はなく、挨拶代わりだと思っても、心ときめかずにはいられなかった。 「アキ、コレ…好きや…ろう?」 「うん…好き」 こうやって言葉遊びのように、意味を取り違えてドサクサ紛れに告白するのが精一杯だった。 きっと本気で告白したら、もう二度と会えなくなる。 アキにはそれがわかっていた。自分は気に入られてはいても、所詮、恋人にはなれないのだと。 矢代には長年の想い人がいる。もう…振られているが。 引く手数多の彼が決まった恋人を作らないのは、矢代がまだその人を想っているから。振られても、今でもずっと、その人のことが好きだから。 (あの人には…敵わないから) 「なんや…上の空やな…」 「そんな…ことない」 「ええよ。やめとこ」 「やっ…」 腰を持ち上げられそうになるのを、抱きついて抗った。 「アキ?」 「お願い…忍さん」 「やっぱり…なんかあったん?」 「ねぇ…忍さん。…甘えても…いいかな」 「ん? 何?」 「今日ね…俺、仕事でミスしちゃって。実はちょっと落ち込んでたんだ。…慰めて…くれる?」 ――嘘、だ。 「ミス? 珍しいな。…ええよ。どうして欲しい?」 「何も…考えたくないんだ。めちゃくちゃに…して?」 「…えらい殺し文句やな」 「あっ」 グルリと体勢を入れ替えられ、ベッドにアキの背中が沈む。冷たいシーツの感触と、優しく微笑む矢代の瞳。
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