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「しゃーないなぁ」
「んっ…あぁっ…イイっ」
「コレで…ええの?」
耳元で矢代がクスリと笑う気配がした。
「ちゃんと、来週の分まで…しといたる…から…」
「あんっ…あっ…ぁ…」
さっきまで他の誰かを探せと言ってたくせに…。来週の分までしておくからと言われては、もう、他の誰かなんて探せやしない。
「アキ…?」
「んっ…んんっ」
「返事は?」
「ん…んっ…うんっ…まっ…てる……からっ…あぁっ」
こうやっていつもこの男に落とされて、中途半端に甘やかされて。
また、突き放されると…わかっているのに。
「可愛いな…アキ」
「あっ…あっ…イイっ…ふぅんっ…んっ」
矢代は絶対に 「好き」 と言わない。
例えどんなに激しく睦みあっている最中でも。
そのかわり、賛辞の言葉ならいくらでも。それが、彼なりのベッドマナーなのだろう。
そうわかっているのに、やはり彼に言われると嬉しい。その優しい微笑で、情熱的な所作で。言葉に深い意味はなく、挨拶代わりだと思っても、心ときめかずにはいられなかった。
「アキ、コレ…好きや…ろう?」
「うん…好き」
こうやって言葉遊びのように、意味を取り違えてドサクサ紛れに告白するのが精一杯だった。
きっと本気で告白したら、もう二度と会えなくなる。
アキにはそれがわかっていた。自分は気に入られてはいても、所詮、恋人にはなれないのだと。
矢代には長年の想い人がいる。もう…振られているが。
引く手数多の彼が決まった恋人を作らないのは、矢代がまだその人を想っているから。振られても、今でもずっと、その人のことが好きだから。
(あの人には…敵わないから)
「なんや…上の空やな…」
「そんな…ことない」
「ええよ。やめとこ」
「やっ…」
腰を持ち上げられそうになるのを、抱きついて抗った。
「アキ?」
「お願い…忍さん」
「やっぱり…なんかあったん?」
「ねぇ…忍さん。…甘えても…いいかな」
「ん? 何?」
「今日ね…俺、仕事でミスしちゃって。実はちょっと落ち込んでたんだ。…慰めて…くれる?」
――嘘、だ。
「ミス? 珍しいな。…ええよ。どうして欲しい?」
「何も…考えたくないんだ。めちゃくちゃに…して?」
「…えらい殺し文句やな」
「あっ」
グルリと体勢を入れ替えられ、ベッドにアキの背中が沈む。冷たいシーツの感触と、優しく微笑む矢代の瞳。
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