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「そろそろシーズンに入るから…そう、ちょくちょくは会えんようになるなぁ…」
「…うん」
知ってる。大会スケジュールも、もうすぐ矢代が集中してトレーニングに入る時期なのも。
「…そんな顔。しなさんなって」
「ごめん…」
(恋人でもないのに…ね)
「アキ。……真面目に、俺に義理立てしなくてええから…」
「…うん」
ちょっと遠慮がちに笑ってみせる。
この三年間、アキが矢代以外、誰とも関係を持っていないことを、矢代は感づいているようだった。矢代のほうはどうなのか、アキには全くわからなかったが。
他の男と遊んでも構わない。恋人が出来たら教えてな。と、初めの頃から言われていた。やはりそれは、自分もそうするから。と、いう意味だったのだろうか。彼ほどの男が、自分以外とまったく関係してないとは思えない。
『俺、そういうの鈍いタイプやから。ゆーてな。人の恋路を邪魔するつもりないし、アキには幸せになって欲しいしな』
『でもアキに恋人できるまで、気が向いたら俺の相手してくれへん?』
優しく微笑んで言うから、最初は遠まわしな告白かと思った。
でも、違った。
言葉通り、なのだ。
――すべてが。
アキも矢代も完璧にフリーで、お互い気が向いたときに会っている。でも、それはタテマエ。毎年矢代がシーズンオフになるのを、アキがどれだけ待ち焦がれているかなんて、矢代が知るはずもない。
「大丈夫。俺はテキトーに暮らしてるから、忍さんの空いたときに…また連絡してよ」
「じゃあ、とりあえず再来週の金曜、予約な」
「え?」
「再来週の金曜。店に迎えに行くから。夜は体、空けとけ」
「…うん」
(俺が寂しそうにしたから…気を使わせちゃった?)
「そや。ちょっと早めに行くから、久しぶりに俺の好きな曲、弾いてくれへん?」
「ジョージ・ウィンストン?」
「おう」
白いタオルで髪の水気を拭き取りながら、爽やかに笑う。――罪な男。
「わかった。練習しておくよ」
少年の頃から憧れ続けた初恋の相手と、セックスフレンドになってしまうなんて、なんて因果だろう。
あのまま、再び出会うことなくただのファンでいられたなら…こんな想いはしなくて済んだのに。
矢代に初めて会った、あの福井県での大会。中学生だった自分がピンクのバラを楽譜に包んで渡したエピソードは、誰にも話していない。もちろん、矢代本人にも。
(インハイ出たことは…言ったけど)
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