寿命の見える少年 2

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「はい、こちらは小梅市立桜小学校です。」 電話が繋がってくれて、安堵した。 たまたま遅くまで残業していた女性の教員が電話に出てくれたようだ。 私は少年を保護していることを伝え、身元確認のために協力を求めると 折り返し電話するとのことで一旦電話を置いた。 それから5分が経過した頃、電話がかかってきた。 少年は、桜小学校の特別支援学級に通っており、『みんなの家』という社会福祉法人の共同居住施設に住んでいることが分かった。 既に、学校から少年の施設に発見の第一報を入れ、直通の電話番号を教えてもらったという。 女性教員にお礼を言って電話を切った直後に、続けて『みんなの家』の直通番号に電話をかけた。 「もしもし、社会福祉法人『みんなの家』です。」 「私、精神科医の真坂と申しますが、今そちらの施設の谷村 弘君を当診療所でお預かりしています。」 「ひ、ひろしは無事ですか。おい、みんな。弘は無事だって。」 何やら受話器の向こうでは、大きな歓声が上がっている。 万歳を叫んでいる者もいるようだ。施設の関係者が心配していたに違いない。 「わざわざ、ご連絡頂きましてどうもありがとうございます。こちらも警察に捜索願いを出したのですが、一向に連絡が無くて心配しておりました。いや本当に助かりました。申し遅れましたが、私は弘の父親の谷村育男と申します。」 私は、少年が私の診療所に来た経緯を手短に話した。 「そうでしたか。大変ご迷惑をお掛けしました。それにしても、あの弘が知らない人に積極的にコンタクトを取るとは、正直嬉しい限りです。」 嬉しい? 行方不明になった息子を喜ぶ親に少し違和感を覚えたが、まあいい。 「これから、そちらの診療所に迎えに行くつもりですので、大変申し訳ございませんが我々が到着するまでお待ち頂けますでしょうか。」 私は、少し思案してから答えた。 「実は、私はこれから帰宅する予定なのですが、そちらの施設は私の家に近いようですので、自分の車で弘君をそちらにお連れしましょうか。」 受話器の向こう側で少し議論している様子だったが、「そうして頂けますと、こちらも非常に助かります。」との回答だった。
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