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インターホンを押してしばらく待つと、入口の扉を開けてメガネを掛けた中年の男女が現れた。
「ご連絡をした精神科医の真坂と申します。谷村 弘君を連れてまいりました。」
「いやあ、これはどうもどうも・・・。」
眼鏡の男性は、白髪交じりの頭を何度も私に下げた。
「うちの弘をわざわざお送り頂き本当にありがとうございます。既に、警察には捜索願いを出しておったのですが、なかなか連絡も無くほとほと困り果てていたところでした。これでようやく一安心です。」
私はここに来る途中、車内で起きた少年の症状を詳細に伝えた。
「すみません。重ね重ねお世話になりました。息子はてんかんの持病を抱えております。でもあなたが精神科の医師で幸いでした。適切な処置をして頂き助かりました。本当にありがとうございます。」
隣で様子を伺っていた物静かな中年の女性は、「失礼致します。」と言って、私の背から少年の体を抱き取ると、慣れた手付きで背負い直し静かに建物の中へと消えた。
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