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「申し遅れましたが、弘の父親の谷村 育男と申します。当施設の理事でソーシャルワーカーを務めております。」
「あの・・・つかぬ事をお聞きしますが、弘君はこの施設で育ったのですか?」
谷村氏は逡巡したように見えたが、私の目をじっと見て頷いた。
「ええ、そうです。あの子を産んだ親は、『死神の子を授かりました。弘をよろしくお願い致します。』と書いた置き手紙を残して当施設の門前に置き去りにしたのです。」
「なるほど・・・。それにしても我が子に対して『死神の子』とは、酷い言いようですね。」
「当時は私も怒り心頭でしたよ。あんな心の優しい子を捨てるなんて、捨てた親の方が余程の悪魔だと思いました。確かに、幼少期からてんかんの症状がありましたから、親にとっては育てるのが大変だったとは思いますけれど。これはあくまで私の推測ですが、もしかしたら『あの能力』が親をして『死神の子』と誤解させる元だったのかもしれません。」
谷村氏の眼鏡の奥の優しげな瞳に、怒りと悲しみが交互に宿る。
『あの能力』とは、私の頭上に見えると言っていたアレのことだろうか。
「誤解・・・ですか。」
私がそう言うと、谷村氏は静かに微笑んだ。
「折角ですから少しお茶でも如何ですか。あなたがうちの弘と出会ったのも何かのご縁でしょう。すぐそこに応接室がありますから、そちらまでご案内します。」
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