寿命の見える少年 4

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私は、入口から入ってすぐの小さな来客用の応接室に通された。 谷村氏と私はテーブル越しに向かい合わせに座った。 黒革のソファに深く腰を下ろすと、フワリと体を包み込むような快適さだ。 「いいでしょう、この年代物のソファ。ご覧になってお気づきになったかも知れませんが、この木造建築は、廃校になった小学校の校舎の一部を改修して使用しています。ソファも旧校長室の応接室にあった高級品ですよ。」 谷村氏は、ソファーの座面を嬉しそうに撫でた。 「私共は地域に根差した精神障害者の回復を目指して、精神福祉活動に取り組み続けてきました。もうかれこれ三十年近くになりますが、私達は常にこの古い木造校舎と共に歩んでまいりました。」 谷村氏は眼鏡の位置を右手で直すと、応接室の天井を労るように見上げた。 その言葉の一つ一つに、自分たちの活動に対する自負が伺えた。 「施設の門前に、幼児用のリュックを背負い一人ポツンと座っていた弘を引取ったのは、ちょうど私達の活動が軌道に乗り始めた七年前のことでした。『みんなの家』の活動が地域社会にもある程度根付いて認知されつつあり、テレビ番組や新聞でも取り上げられ始めた頃です。あの子を産んだ両親もどこかで我々の活動を目にしたのかも知れません。」
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