78人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
第1章 #4
マーガリンをテーブルに滑らせ、国枝はソファーに移動した。
あれから、その話題には触れていない。
お互いそれを口にすることはなく、なかったことにしている。無難だよな。それがいい。何もなかったように、同居生活を続けるべきだろう。
かなり強烈な印象だったから、隆史のことよりそっちに気が行ってしまうのだが。それはそれで助かる。下らない甘言の真意は、俺が望むこととは真逆だろうし。
フランスパンに、マーガリンを塗って食べた。いつもの店のが、やっぱ旨いよな。
自宅では国枝とまったりコーヒーを飲んだりしてだらだらとすごし、職場では真面目に仕事をこなし日々を送った。
未来の親戚とはいえ、他人と一緒にいても寛げるので寂しくないし、むしろ居心地がいい。
過度に話しかけてこないせいかもな。
国枝は、服さえ着てれば文句を言わないし、部屋の掃除もしてくれる。
新人の相馬は目の保養になるしで、公私共に充実してすごした四月の半ば。在庫管理の安達さんに昼を誘われ、社員食堂で落ち合った。
「珍しいですね、安達さんから誘ってくるなんて」
にぎわっている食堂の空いている席に、定食の乗った盆を置く。並んで座り、箸を割った。
最初のコメントを投稿しよう!