第1章 #5

12/24
前へ
/35ページ
次へ
 国枝は目を眇め、物騒な顔つきのまま扉から手を離した。 「前から思ってたんだけど。あいつなんなの? 颯吾さんあいつのどこがよかったわけ?」  どこって言われると困るのだが、やっぱりあれかな。 「顔?」  ひきつった笑みで答えたら、国枝はさも呆れたと言わんばかりにこめかみを押さえた。 「あ、そ。ならあんたのお気に入りのやつの顔、潰してくるから住所教えな」  潰、って……え? 怖っ! 慌てて顔の横で万歳をして、左右に首を振った。 「何、殴られてもまだ未練あるのかよ」 「ないないない! 今日ので未練とかなくなったし、迂闊にも自分の男見る目は曇りきってると思い知らされたけど、」  一息に言ってから、喉を鳴らした。 「あの、国枝めっちゃ怖い、んだけど……」 「そりゃ今全開で怒ってるから。あんたが案外ぼんやりなのはいいんだよ。別にもうそれ込みで好きだから」  嘘、俺ぼんやりなのか? 言われたことないけど、ぼんやりって、なんかひどくないか? 「ただね、あんなやつに泣かされたり殴られたりするあんたには腹が立つの。わかる?」  いやまったく。なんの話してたのかわからなくなるくらい混乱してるから俺。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加