第1章 #5

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 驚いていると言うより、呆れているような国枝の視線を無視し、きょろきょろとダイニングテーブルの辺りを見回す。 「クロワッサンは?」  あ、鞄にクリームチーズが。  思い出し、寝室に持ち込んだ鞄を取りに行った。袋を取り出し、用済みの鞄をソファーへ投げる。  クロワッサンにクリームチーズ……別にいいよな?  イスに座ってから、背中を向けている国枝に話しかけた。 「二割引きだったんだよこれ、クリームチーズ。国枝も食べる?」  マグカップを手に振り返った国枝は、返事をせずに眉を潜めた。その視線が、俺の額に注がれているのに気づく。 「あ……」 「何、どうしたの額」  マグカップをテーブルへ置き、俺の横に来て髪を掻き上げる国枝に焦る。 「壁で擦りむいたんだ。すぐ治るだろ」 「もしかして、残業じゃなく飲んできた?」 「残業もしたけど、少しだけ飲んだ」  国枝は、仕方ないなあと呟いて、リビングから出ていった。  焦った。ほっと安堵して、小さく笑う。なんで叱られるだなんて思ったんだか。
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