第1章 #5

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 マグカップを引き寄せ、辺りを見回す。  クロワッサンはどこだ? 結局あの店で何も食べていないから、腹減った。だいたいさ、カナッペにフランスパンを使わないなんて、ロクでもない店だよな。 「颯吾さん」  戻って来た国枝は、手に消毒液を持っていた。 「気持ちだけ受け取った。クロワッサンどこだ?」  消毒液から目を逸らし、真顔で国枝を見上げる。 「何言ってんの、車借りてフランスパン買ってきたよ。メール見なかった?」 「えっ。見なかったごめん、フランスパンどこ?」  緩んだ顔のまま、クリームチーズの箱を開けようとしたら国枝に阻止された。 「消毒してからだよ」 「だから、気持ちだけ受け取るって」 「馬鹿言わな、……滲みるから嫌だとか、ガキみたいなこと言わないよね?」  にっこり笑う国枝に、俺もにっこり笑う。ガキじゃなくても、滲みるのとか嫌だろが。  しかし無理矢理消毒をされ、テーブルに頬を押しつけじわじわと滲みてくる痛みに耐えた。 「半泣きだし。まったく、これに懲りたら飲みすぎないよう気をつけなよ?」
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