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第1章 #5
「途中まで乗ってくだろ?」
空車のタクシーを停め、池田を見たら肩をすくめられた。
「金曜に、こんな早く帰らないわよ」
ああ、そうですか。苦笑して、タクシーの扉に手をかけ振り返る。
「助かった。ありがとう」
「いいわよ。知念は私の大切な、仕事のパートナーだし。篠原も、あんたのことは気に入ってるんだから」
でなきゃあんなのポイ捨てだと、池田は楽しそうに笑った。敵わないな、とに。
「仕方ない。仕事のフォローは任せとけ」
「期待してるわ、未来の課長さん」
一課の課長は池田か?
不敵な笑みを交わしてから、タクシーに乗り込んだ。
うあ、けっこう腹も痛いな。
自宅玄関で、ドキドキしながら靴を脱いだ。
額を押さえてリビングに向かう今の心境は、奥さんに叱られないかとびくびくしている朝帰りの旦那だ。
なかなか上手いこと考えるな自分、と気分を奮い立たせて額を擦り、リビングに足を踏み入れた。
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