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つまり、剣舞の達人はそのまま王宮剣術の達人にもなり得る……剣舞に限らず、踊りのルーツというものは、意外と昔の武術の型を伝える為のモノであることが多い。
だから、酔っ払って踊り子のねーちゃん達にチョッカイかけるのは止めておいた方がいいぞ? 思わぬしっぺ返しに合う場合もあるからな。
そういや、メノウも踊り子だって言ってたな……アイツもなーんかマイナーな武芸でも嗜んでいそうな気はするが……
などと思いながら、踊り子たちのショーを尻目にエビのマリネをおかわりしていると……
《さざ波がうたを歌う》
《南風が メロディを奏でる》
《太陽が 朝をおくる》
《そして》
《わたしは 明日を旅する》
ふいに、歌が聞こえてきた
「……え?」
ステージの方を見るが、激しく情熱的な舞の曲調と外から聞こえてくる、童謡じみた歌とは明らかに別物だ。
「……なんだ? この歌は」
「スゴい、キレイなお歌~!」
「誰か外で歌っているのかしら?」
と、他の乗客たちもざわめき始める。
優しく、のびのびとした穏やかな歌声……俺は、その美しい声に聞き覚えがあった。
そう……ちょうど30分くらい前に聞いたばかりの声だ。
――あの、バカ女~ッ!!
俺は食堂を飛び出し甲板へ出た。
◆◆◆
今宵は満月。
月光に照らされて、つやつやと煌めく夜の海は、昼間とはまた違った美しさを見せていた。
黒曜石の海を眺めながら、銀色の髪をなびかせて彼女は歌う。
《渚がわたしの背中を押して》
《潮風は わたしを追い抜く》
《日光は 海の果てを指して》
《わたしに そっと教える》
《ほらご覧 君たちはみな》
《海の果てからやってきたんだ》
《さあ 行こう
明日への旅の 道すがら》
《さざ波の歌を さあ歌おう》
「さあ歌おうじゃねえッ!
この密航者!」
俺は、手すりに背中を預けて気持ち良さそうに歌っているメノウの脳天にべしっと一発入れる。
彼女はこちらを振り向くと
ハッと息を呑んで、驚いたように俺の顔をしばし食い入るように見つめていたが……少し表情を和らげて、怒ったように頬を膨らませた。
「あいた。
もう……ギルバートったらなにするの~~!?」
「何するの、じゃねぇよ!
お前、自分が密航者だって自覚あるんだろうな?」
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