赤いろうそくと人魚

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《さざ波が うたを歌う》 《南風が メロディを奏でる》 《太陽が 朝をおくる》 《そして》 《わたしは 明日を旅する》 《渚がわたしの背中を押して》 《潮風は わたしを追い抜く》 《日光は 海の果てを指して》 《わたしに そっと教える》 《ほらご覧 君たちはみな》 《海の果てからやってきたんだ》 《さあ 行こう 明日への旅の 道すがら》 《さざ波の歌を さあ歌おう》 それは わたしの村で古くから伝わる歌。 けれど、今はとっくに忘れ去られわたししか歌うことの出来ない 誰もしらない、可哀想な歌…… ギルは、わたしの歌を聴いているのかいないのか、小さなろうそくに灯した火を、ただじいっと眺めていた。 なんだか、昔を思い出すわ。 さざ波の音が聞こえる小さな小さな家で、あの人と二人、過ごした日々を。 月夜の晩に、小さなろうそくに明かりを灯して わたしはいつも、歌っていたわ。 そして彼は 『お前の歌なんか興味ないよ』 なんて言うように、ぷいっとわたしから目をそらして、小さな火をじっと見つめていた。 だけど、ぴたりとわたしが歌を止めると…… 「……なんで止めるんだよ」 と、ギルはムッとした顔でわたしの方を見た。 その様子が彼にとてもそっくりで ついクスクスと笑ってしまった。 「ううん、なんでもないの。 歌っていたら、何だか懐かしくなっちゃって……」 ねえ、ギル。 この歌には、いろんな思い出が詰まっているのよ。 あの人と二人、村で一番海に近い家で暮らしていた時のこと。 おとなしいお兄ちゃんと、しっかり者のお姉ちゃん。 元気な妹に、ちょっと生意気な弟……子ども達が産まれて、家の中が、一気に賑やかになって だけど わたしが歌をうたい始めると、みんなしーんと静かになって、わたしの歌を聴いていた。
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