赤いろうそくと人魚

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やがて…… 子供達はわたしの年を追い越し あの人は、しわしわになって歩けなくなった。 ああ、あの日もたしか こんな満月の夜だった…… わたしではなく、ろうそくの火を見つめて、あの人はこう言ったわ 最期に、あの歌をうたっておくれ わたしは…… サザナミの歌を、彼に……わたしの愛しい愛しい旦那さんに聴かせてあげた。 最期のろうそくの火が消えてしまうまで、ずっと……ずっと…… 「……ああ。 火が消えかかっているな……」 ギルはそう言うと、新しい真っ赤なろうそくを取り出す。 その手元をよく見てみると、彼の左手の薬指が欠けているコトに気がついた。 「……ん? どうかしたのか?」 彼は、わたしの視線に気付いて、顔を上げる。 「う、ううん。別に……」 わたしは目をそらした。 ……欠けた、左手の薬指…… ………ううん。 きっと、わたしの思い過ごしよ。 指の欠けた人なんて、冒険者だったら珍しくもなんともないわ。 「ただ、変わったろうそくだなーって、思ったの」 代わりに、わたしは彼が持っているろうそくについて質問した。 真っ赤なろうそくなんて珍しいもの。 尋ねたって、おかしくないでしょ? 「ああ、こいつか。 ちょっとしたジンクスだよ。 人魚を呼ぶためのおまじないってヤツだ」 俺は別に信じてはいないけどな と、前置きして、ギルはとある昔話を語り始めた。
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