6人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
……もしも
これが英雄物語の主人公だったら
あるいは、偉大な冒険家ギルバート・アンダーソンだったなら、悪党を殺さずとも撃退できただろう
しかし……俺は弱いのだ。
相手を殺さない様に手加減して戦ったら、死ぬのは間違いなく俺の方だ。 だから、戦いの時は敵に容赦しないコトにしている。たとえ相手が女子供だろうとな
そして、いずれは俺もコイツらのような死に方をするコトになるのだろう……
それが、明日か数年後か、あるいは今から数時間後か、それは分からないが
……と、珍しくそんな下らない物思いにふけっていると
「お……お兄ちゃん!?」
野太い声が聞こえ、思わず部屋の入り口の方を振り向くと、そこには鎖鎌を持った大男が立っていた。
たった今、俺が殺したばかりの斧男に瓜二つな風貌をしており、どうやら斧男の弟らしい。
てか、その顔で[お兄ちゃん]って……なんて言ってる場合じゃない!
「よくも、お兄ちゃんを!」
鎖鎌男は、ぶんぶんと鎌を振り回しながらこちらへ突進していく
や……ヤバい!
このままじゃ……
と、その時
ごふっ
鎖鎌男の口から血が飛び出た。
ずしゃり
嫌な音がして、彼の割れた腹筋の間から三つ叉の刃が生えた。
男は後ろを振り向いて、自分の腹を貫いた者の姿を見る。
「……ば…ばかな…」
その姿を見た瞬間、鎖鎌男はそう呟き、どさりと倒れた。
「……大丈夫?ギル」
その人物は、三つ叉の槍を引き抜くと顔に飛び散った赤い雫を拭って、にっこりほほえむ。
「メノウ……
あ、ああ…助かったよ」
俺はそう言うと、構えていたナイフを下ろした。
メノウが持つ、三つ叉の槍の穂先はぽたぽたと血が滴り落ちている
「ギルは隠れてろって、言ってくれたけれど……
やっぱり、一人で乗客の皆を助けるだなんて無茶よ。わたしも一緒に行くわ!」
「あ、ああ……」
いや、乗客を助ける気なんてさらさら無かったんだけど……まあ、ここはそういう事にしておこうか
最初のコメントを投稿しよう!