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◆◆◆
俺の客室は狭く、樽やら何やらが所狭しと置いてあり、まるで物置みたいな部屋だった……まあ、ディスカウントの安物チケットだからな。
埃も積もっていないし、とりあえず荷物を置いて横になるスペースもあるから、別にいいんだけど……
がたん
と、樽の中から物音がする。
ネズミか…? とも思ったが、もっと大きな音のようだ。
おいおい
ちょっとまてよ……
まさかと思いながらも
俺は、ゆっくりと例の樽に近づき……蹴り飛ばした。
樽のフタを開けて[何か]が襲いかかってきたら困るからな。
「きゃーーっ!」
案の定、樽の中から飛び出したのは人間だった。
それも、若い女。
年頃は十代半ばだろうか。
ふんわりウェーブの銀髪に紅色の瞳、赤味がかったミルク色の肌、痩せがたで長身、手足はやけに細いが、どうやらバレエダンサーのようなしなやかで細長い筋肉がしっかりとついているようだ。
銀髪の癖っ毛は北国の特徴。 鼻ぺちゃ、丸顔、大きなアーモンド型の瞳、肌の色は東洋の特徴だ。
俺の好みではないが、可愛い系の美少女といってもいいだろう。
察するに、彼女は踊り子
北国と東洋のハイブリッド。
言っちゃナンだが金持ちや貴族の混じり者はまずいないので、彼女が身につけている泡絹のロングドレスや、黒真珠の片イヤリングは、おそらく金持ちのパトロンにでも買って貰ったんだろう。
で、そのパトロンから逃げ出してきた…そんなところか。
それは、どーでもいいんだけど…これって密航だろ?
密航は、いうまでもなく重罪だ。
いくらネプチューンみたいな観光地でも、見つかればただでは済まないだろう。
つーか、人の部屋に隠れるなよ…
下手したら俺まで同罪扱いされちまうじゃねーか!
「つーワケで、乗務員に突き出してやるからちょっとこっち来い!!」
「きゃ~!ちょっと待って~!」
女は意外と強い力で俺の腕を振り払うと、部屋の隅に隠してあったらしい奇妙な槍をとりだした。
先が三つ叉になっており、俺がガキの頃素潜り漁で使っていた銛にずいぶんとよく似ている。
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